第3章 開放


あぁ・・・・・やっと開放された。

歓迎行事に追われ 自由時間さえ取れなかったが 自由の身になって 気分は上々だ。
ここはアメリカ大陸ヒューストン 宛てはないが東に向かうことにした。
今は盛夏だ。 海風が心地よく感じながら歩き出した。
体重が増えたので心臓に負担がかかる。「何でこんなに重くなったんだ・・・・。」とひとり言が出た。

しかし月とは勝手が違う、見るものすべてが目新しいものばかり、海岸に降りていくとモーターボートとヨットがたくさん見えた。
砂浜には日光浴を楽しんでいる人々がいた。色鮮やかな世界がある。
しばらくその光景を日陰で眺めていたら時間が経つのを忘れ、
それと自分が亀だったことも忘れていた。?・・・

目の前に海があるのに・・・・・・
ひと泳ぎすることにした。砂浜を降りていくと僕に気づいた男の子が「あっ、亀だ!」と叫んだ。
周りにいた人が一斉に僕を見ている。「あれは月から来た亀じゃないか、亀ノ助だ!」と言っている。

僕はいつのまにか有名になっていた。無視できないとニコッとしたが、すまなかった。
僕と同じ年位の子が駆け寄ってきて「どうしたの!・・・一緒にあそぼ」と
手を取って海の中へひっぱられた。

仕方ない 遊び相手がいたほうが楽しいと思い、得意げにスイ スイと宙返りをしながら泳いでみせた。
波乗りもしてみせた。僕には甲羅がある為ボードは必要ない。
しばらくこの感触を忘れていた。
なかなか気持ち良い、子供たちも喜んでくれた。

そのうち砂浜にいた人たちが集まりだし輪ができていた。僕にはみんな関心があるみたいだ。
その中のひとりが声を掛けてきた。
「私はケニーと言います。良かったら私のヨットへ来ませんか、今日は友人を呼んで船上パーティーをするんです。」

「是非とも、いらしてください。」といいながら、沖のほうを指した。
その手の先を見ると、
たくさん停泊している中 一番美しく大きなヨットを指している。
その誘いに甘えて
「先に行ってます」と言って船に向かって泳ぎ出した。

得意の泳ぎ?でやっとヨットに着くと「ようこそ、シーゲート号へ」と甲板からケニーが手を差し伸べてくれた。
「君の泳ぎはなかなか面白い。何処に向かっていくのか分からない。」と笑われてしまった。

船には数人がパーティーの準備をしていた。
船はヨットといっても豪華客船のようだ。
「まぁ、くつろいでください。」と言われて、デッキのサマーベッドに腰を下ろした。

オーナーは、この近くの海岸でホテルを経営しているケニー・ローバーだ。
今日は家族と友人達と休暇を楽しんでいる。

そのうち夕日が空をオレンジ色に染め始めた。周りのヨットにも明かりがつき始めた。
すると正装した紳士淑女が腕を組みながら現れてきた。パーティーの始まりだ。
音楽も景色にマッチした軽いジャズが流れている。

僕の傍には一緒に遊んだ女の子が座った。私は「キャスリンと呼んで、何か飲みます。」と言ってきた。
「僕はワインを飲みたい。」
「分かったわ。」と取りに行った。

しばらくして「はい」と渡されたグラスを見ると薄紫色をしているが、ワインには見えない。
恐る恐る飲んでみると、ただの葡萄ジュースだった。
その様子を見て「だって、あなたはまだ子供でしょ?」といいながらクスクス笑っている。
「でも僕はワインを飲んだことがあるんだ。地球に来た時、歓迎パーティーで
初めて飲んだ ワインが気に入ったんだ。」と言うと・・・

「地球では子供にアルコールは禁止されているの」と言われた。
確かに僕は 5歳だ・・・・・

 

するとボーイが「お替りはいかがですか」とまわってきた。
チェリーが入っているグラスがトレーの上に見えた。
「それをください」といったら、またキャスリンに笑われた。
まぁ、あきれたという顔をして僕を見ている。
口をつけてみるとほんのり甘くワインとは違った味がした。
「これは?」と尋ねると「それもお酒の一種 カクテルよ」といわれてしまった。

いつのまにかアルコールが好きになっていた。
パーティーも一段と盛り上がりを見せ、周りも暗くなり海岸の明かりがキラキラと美しく見えている。
今日は月夜だ。鋭く尖った三日月のかたちをしている。
地球から見える月は遠く小さく見えた・・・・・じっと見ているうちに月がぼんやりしてきた。
雲がかかったのか、それとも涙なのかわからない。
実は酔いが廻っていた。
なれないアルコールを飲みいつのまにか瞼が重くなっていた・・・・・・

「朝よ」とキャスリンに起こされた。僕には大きすぎるフワフワのベッドに寝ていた。ベッドの中でおもいっきり背伸びをしてみた。
ぐっすり眠れたようだ。
「もっと話したかったのに、昨日はすぐ寝てしまったのよ。」
「ごめん僕には、いつ寝たのか記憶がないよ。」
窓の外は、燦燦と輝き太陽が既に高く上がっていた。
デッキへ出てみると砂浜には、昨日と同じく甲羅干しをしている人たちで賑わっていた。

僕は海へ飛び込んだ。
気持ちが良い水温だ。海の中は、色とりどりの小魚が珊瑚の間を縫うように泳いでいる。
更に沖へ出てみると背の高い海草が茂っていた。
その間をスイスイと泳ぐのは、格別なことだ。

周りを見るときらきらと銀鱗を光らせながら、魚の群れがいた。
数万匹の魚がまるで大きな固まりのようだ。 瞬時に向きを変え色々な形に変化していく。
いったい誰が指揮をとっているの・・・・・・ 何と楽しい光景だ・・・・・・ダンスをしているようにもみえる。
思わず拍手をしてしまった。

しばらくその光景を楽しんでいた。

突然、目の前を黒く巨大なモノが横切っていった。すぐ後から大きさに比例したうねりが襲ってきた。
「あっ!」と 声も出ないうちにキリもみ状態になってしまった。周りの海草も一斉に同じ方向へなびいている。
クルクルと身体ごと強烈な流れに飲み込まれていく。
逆らえないまま もがいていると、海草の束の中へ叩き付けられたように押し込められてしまった。
何が、起こったのか見当もつかない。、砂が舞い上がり周りの視界まで悪くなってしまった。

いったい、何が通っていたのか?・・・・・

海草の中から周りの様子を覗っていた時、またしても黒い巨体が近づいてきた。
危険を察し頭を引っ込めながら、目の前の海草をとっさに掴んでみた。
しかし、前のうねり以上の海流が襲ってきた。水力が強く握っていた海草を放してしまった。

すると更に海草の奥深く押し込められてしまった。

まもなく強烈な流れが納まり、静かな海流に戻った。
何事も無かったかのように小魚が現れて泳ぎ回っている。

首を出してみると海草どうしが絡み合っている。
その中に自分がいることに気づいた。まるで海草で作られた網の中にいる。大変なことになっている。

急いで脱出しないと息ができなくなる。体をゆすってみたが、絡み合った海草は簡単にほぐれない。
もがけばもがくほど絡み付く感じだ、 自力で脱出できないことがわかった。
「助けて!! 誰か助けて!!」と叫んだ。

すると、近くを泳いでいた魚が、僕に気づいてくれた。しかし小魚には助け出す手立てが見つからない。
更に数匹が近づいてきた。何か相談している。
サンゴも僕の様子を見ているだけ。そのうち魚の姿も見えなくなってしまった。

なんとこのまま終わってしまうのか・・・・・・急に月にいた自分を懐かしく思えてきた。
月には水も無く溺れることはなかったのに・・・・・・


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