第2章 新天地


ヘリコプターが到着したのは、軍事基地であった。

すごい歓迎ぶりの中 ビニールのトンネルを抜けると隔離された部屋に通された。
放射線ルームに入り放射能測定が済んだ、次の部屋は医療機器がたくさんある診察室だ、直ちに健康診断が始まった。

3人が次々と診察が終わり、僕の番が廻ってきた。

すると診察医がいった。「この亀も診察するのか?」
もうひとりの満面 髭を生やした医者が「当たり前だ!」と叫んだ。
「人類史上、初めて偉業を成し遂げた、月面探査に同行した貴重なカメだ 、勲章ものに値するんだ!」

すると納得したように「では、診察します。」と僕の左腕を掴んで脈を計り始めた。

視力検査、聴覚検査と見た事の無い装置を体に次から次へと付け替えられて手際よく進めていた。
最後に注射器を出してきて僕の顔の前へ突き出してきた。

ギョ!!とした瞬間

「安心してください、痛くありません。」と言っているがそうは行かないと、後ずさりした途端、椅子から落ちた。
反射的に首と手足を引っ込めていた。

「あっ!」と医者が叫んだ瞬間、周りのざわめきがやんだ。

ゆっくり首を出してみると、みんなが心配そうな顔をして覗き込んできた。「さすが カメは違う。」とひとりが言った。

そんな・・・僕の身になってみろ、
僕の身長の何倍もの高さから落ちたのに もう少し気遣ってくれよと思いつつニコって笑ってみせた。
手を差し延べてきたひとりが、「血液検査は免除しよう」と言いながら、椅子に座らせてくれた。
その言葉を聞き ホッとした瞬間、すかさず腕には注射針が刺さっていた。あっ!騙された・・・・

私はだれ?

まもなく、記者会見が開かれるとの連絡を受けた。
拍手の中、会場入りすると各メディアの記者とカメラマンから関係スタッフがたくさん陣をとって待ち構えていた。

僕の席も用意されていた。花束を持ったコンパニオンが近づいてきた盛大な拍手の中受け取った。

やはり注目の的は船長のアームストロングであった。

記者の中には僕を不思議そうに見つめている何人かがいた。いよいよ僕の番が廻ってきた。

一斉にフラッシュがたかれ、視線の嵐に見舞われた。ある記者が聞いてきた、「今回の月面探査について一言・・・」と

僕は返事に困った。だいたい僕がなぜこの会場に居るのかさえ不思議な上、探査の目的さえ知らされていないのに
何と答えて良いのか迷った。
しかしこの熱気ある会場の雰囲気を壊してはまずいと思った瞬間、

「良いところでした。」と答えた。しかし「僕は・・・・」といいかけた時、

「地球から月へ宇宙飛行したカメはあなたが始めてですが、月から見た地球はいかがでした。」

「いつも見ているから・・・」と我に返ってしまった。やはり嘘はつけない。

「えっ!・・・地球をいつも見てたんですか?」

「そうです。・・・だって僕は月から地球へ来たんです。」

その瞬間、会場は今まで以上のざわめきとも歓喜とも とれんばかりの盛り上がりになった。

「これは、特ダネだ!!」 と声が上がった。

世界中にライヴ中継されているモニターに大統領の顔が映った。
「Welcome to our Earth」と歓迎の挨拶をされた。でも大統領の顔から疑いの眼差しが感じられた。

しばらく質問攻めにあって、ようやく会見が終了した。

これで開放されると思ったら近くのホテルに案内され、最上階のスウィートルームへ通された。

部屋は広くゴージャスで眺望の良い室だった。
僕はホット・・・していると、「次は晩餐会の準備ができました。どうぞ、お移りください。」 と案内された。

月から来たカメと賞賛され、月へ行ってきた人間よりも、注目を浴びてしまった。
晩餐会の中でも、話題の中心は僕だった。

目の前の大きなテーブルには豪華に飾りつけられた芸術的ともいえる料理の数々が並んでいた。
普段の主食のクラゲとは比べ物にならない。

遠慮していても仕方が無いと思い食べようとした。
しかし、みんなナイフとフォークを巧みに使いこなしている。
僕は使った事がなく困ったが フォークだけで手の届く料理から食べ始めた。

次から次えと違う料理が出てきた。
エビもヒラメも調理してあった。生じゃない。普段食べようともしなかったがなかなか美味である。
ラムも柔らかくておいしい 。キャビア、フォアグラ、トリュフも初めて食べた。
ワインも賞味した。目の前の料理という料理は全てたいらげた。

しばらく食事をしてなかったせいか、自分でも驚くほどの食欲だ。
空腹も満たされ落ち着いて見渡すと 周りの微笑ましい視線を感じた。

本日のスケジュールが終わって室に戻ったのは12時をまわっていた。

あ・・・やっとひとりになれたとベッドに横たわって
テレビを点けてみると、月面の様子が映し出されていた。
月で見た船長が星条旗を月面に突き刺しているところが流れていた。
よく見ると背景の岩陰から僕の顔がかすかに映っている。

誰も僕が映っていた事を気づかなかったんだ。・・・

ある科学者が「月には生物は居ませんね。岩と砂だけの衛星です。」と自信たっぷりコメントしている。

だいたい僕が月に居たことを信じていない。頭の固い奴だ・・・・・。
わかってないなと思いながらチャンネルを替えた。他局も同じ特集をしていた。
月へ来たかぐや姫の事を知らないのか?・・・月と地球は兄弟なのに

・・・・・・・・・・・・・・・

ドアをノックする音で目が覚めた。「Good Morning」とドアの外で声がする。
「起きてください、今日のスケジュールは凱旋パレードがあります。遅れないようにしてください。」と言い残して去っていた。
まだ眠いなと思いつつシャワーを浴びたが、まだ眠い。

そろそろ時間がきたのでロビーへ降りていくと、
僕が大型のパネルになってホテルの玄関前に飾ってあった。

「やった。」自分の写真を見たのは初めてだ。やっと目が覚めた。

更に、大型のコンヴァーチブルが横付けされていた。パレードが始まった。

前には楽団が先行しNBAの優勝か大リーグの優勝パレードの様な歓迎ぶりだ。
町中が歓迎一色のムードに包まれている。
大通りを進につれ100メートル前が見えないほどビルの窓から紙テープと紙吹雪が舞っている。
人々の歓声が沸き上がっている。
これほど大勢に祝福され 気分が良いのは生まれて初めてだ。

その後、数日間にわたり 歓迎行事が連日行われた。
もうクタクタだ・・・・・・

この数日間、たくさんのプレゼントを貰った。
その中からアメリカ国民名誉勲章とあらゆる乗り物とレストランの食事がフリーとなる
カード1枚だけ持って旅に出ることにした。

友達になった宇宙飛行士にお礼を言って別れることになった。

 

健康診断の結果が出た。

健康診断結果
身 長
34cm
体 重
3.8kg
血液型
血 圧
35〜98
視 力
左1.2/右1.5
聴 覚
4〜20003Hz
放射能
検出なし
総合所見
特に異常無、健康であります。

体重が増えている!・・・
太った様子はないが、3.2キロも増えている。確かに見かけは変わらないが、重くなった。
(引力の違いで6倍の体重になってしまった。)


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